デュシャン「トランクの中の箱」には何が入っていたのか

デュシャンの「トランクの中の箱(レプリカ)」開封式、AirTのイベントで2020年10月15日に行いました。その模様はFacebookライブで配信しまして、「あーこれ、見たことある」的な恥ずかしいコメントの連発でした。さて、今年のお(寝)正月にどんな作品が入っているのかを確認しましたので以下に覚書します。一番最後に中味の画像をいくつか貼っておきます。

なお、名称は以下。初版がAだとして、順に作られたとすれば7版目ということでしょうか。
BOITE-EN-VALISE
de ou par MARCEL DUCHAMP ou RROSE SELAVY
BOITE SERIE G, 1968 DESIGNED AND EDITED BY MATHIEU MERCIER

箱の補足

  • 箱の蓋を開けると中から大ガラスが立つようになっています。作品は大ガラスの左隣にレディメイド3点が取り付けられていて、大ガラスの後ろに枠があって作品が収納されています。
    →大ガラス部
  • 下の箱に作品が描かれています。
    →下箱部
  • 下の箱の中にさらに収納があり、黒いリーフレットが17枚収納されています。一枚はトランクの中の箱自体について、残りの紙に作品が描かれています。
    →リーフレット部

記載について

  • 以下に記した作品タイトルは原題ではなく、日本初のデュシャン展(1981年)の図録から引用。原題のままのものは図録に掲載されていなかったものです。その場合は日本語訳を右に記しました。
  • 箱の中に入っている作品点数は69点とも83点とも言われてますが、私の数え方だと80でした(画像点数ではなく、作品点数でカウントしたつもり)。

大ガラス部(左側)

01 パリの空気(1919)
02 旅行者用折りたたみ品(1917)
03 泉(1917)

大ガラス部

04 彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも(大ガラス)(1915-23)

大ガラス部(後部1)

05 階段を降りる裸体, No.2(1912)
06 花嫁(1912)
07 急な裸体によって取り囲まれた王と女王(1912)

大ガラス部(後部2)

08 お前は私を(Tu m’)(1918)
09 櫛(1916)
10 9つの雄の鋳型(1914)
11 隣金属製の水車のある滑溝(1913-14-15)

下箱部

12 3つの停止原器(1913-14)
13 ソナタ(1911)
14 ローズ・セラヴィよ、なぜくしゃみをしない?(1921)
15 チョコレート磨砕器, No.2(1914)
16 コーヒー挽き(1911)

リーフレット部

*1枚目
17 父の肖像(1910)
18 ドゥムーシェル博士の肖像(1910)
19 叢(1910)
20 チェス・ゲーム(1910)
*2枚目
21 ショーヴェルの胸像(1910)
22 Bateau Lavoir(1910) 洗濯船
23 Femme nue dans un tub(1910) 浴槽の中の裸婦
24 Nu Rouge(1910) 赤いヌード
*3枚目
25 汽車のなかの悲しめる青年(1911)
26 Joueurs D’échecs(1911) チェスプレイヤー(習作?)
27 チェス・プレイヤー(1911)
28 チェス・プレイヤーの肖像(1911)
29 階段を降りる裸体, No.1(1911)
*4枚目
30 Tamis ou Ombrelles(1914) ふるいまたは傘
31 Etude pour les joueurs d’echecs(1911) チェスプレイヤーの習作
32 チェス・プレイヤーの肖像のための習作(1911)
33 チェス・プレイヤーの肖像の習作(1911)
*5枚目
34 Médiocrité(1912) 平凡
35 肖像〔ダルネシア〕(1911)
36 ちっちゃい妹といえば(1911)
37 ぼろぼろにちぎれたイヴォンヌとマグドレーヌ(1911)
38 なお、この星に(1912)
*6枚目
39 2 nus: un fort et un vite(1912) 2つのヌード:1つは強く、もう1つは速い
40 高速の裸体によって横切られた王と女王(1912)
41 急速な裸体によって横切られた王と女王(1912)
*7枚目
42 処女から花嫁への移行(1912)
43 Vierge(1912) 処女  これが処女、No.1か?
44 処女、No.2(1912)
45 独身者たちによって裸にされた花嫁(1912)
*8枚目
46 制服あるいは仕着せの墓場、No.1(1913)
47 Glissière 隣金属製の水車のある滑溝を撮影した写真と思われる
48 チョコレート磨砕器、 No.1(1913)
49 Elevage de poussière(マン・レイによる写真 1920) (デュシャンがニューヨークにいる間に大ガラスに溜まった1年分のほこりというドキュメント)
50 Combat de Boxe(1913) ボクシングの試合
*9枚目
51 約1時間、片目を近づけて(ガラスの裏側から)見ること(1918)
52 Couverture(マン・レイとのコラボレーション 1921) 毛布(デュシャンの「美しい吐息、ヴェール水」の壜を撮影したもので、New York Dada マガジンの表紙
53 Témoins oculistes(1920) 眼科医の証人
54 Coeurs volants(1936) はためくハート
*10枚目
55 壜掛け(1914)
56 折れた腕の前に(1913)
57 帽子掛け(1917)
58 Ready made Malheureux(1919) Unhappy Readymade
59 旅行用彫刻(1918)
60 薬局(1914)
*11枚目
61 Ready made aidé(1916) 「秘めたる音に」の裏?
61 秘めたる音に(1916)
62 自転車の車輪(1916)
63 Trébuchet(1917) トラップ (62、63は、デュシャンのスタジオで撮影された写真(33 West 67th, New York)
64 エナメルを塗られたアポリネール(1916-17)
*12枚目
65 オステルリッツの喧騒(1921)
66 なりたての未亡人(1920)
*13枚目
67 回転ガラス板(1920)
68 回転半球(1925)
69 マン・レイによる回転ガラス板のステレオ写真(1920)
70 A La Mainのステレオ写真(1918)
71 ロトレリーフ(1935)
*14枚目
72 L.H.O.O.Q.(1919)
73 ツァンク・チェック(1919)
74 Ready made rectitie(1923) Wanted:$2,00 Reward
75 モンテカルロ債券(1924)
*15枚目
76 雌のイチジクの葉(1951)
77 停止原器の網目(1914)
78 オブジェ=ダール(1951)
79 貞潔の楔(1954)
*16枚目
80 Recette(1918)(??五線紙に言葉遊び的なプリント)

雑感

  • 最後のが、作品なのか、言葉の寄せ集めなのか、デュシャンが書いた本なのか分からなくて気になってます。別途調べたいですね。
  • 39〜41の王と女王あたりは、どういう順番で描かれていったかを示してくれてわかりやすい。それに対して、最終的な油絵である「急速な裸体によって取り囲まれた王と女王」をあえて外しているのも意味深。
  • 53の眼科医の証人、原題で検索したら、2015年にこれをモチーフにしたこんな展示があった模様。この展示遡って確認してみたいですね。

トランクの中の箱の中味はこうでした

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